近年「高齢化」が社会問題として大きく取りざたされています。高齢化の現状はどうなっているのか、資料で見ておきましょう。
(表①高齢化の現状と将来像)
総人口に占める年齢層別人口と高齢化率(※2015年までは実績値、2020年以降は推計値)(内閣府「高齢社会白書平成28年度版」を参照)
表①の棒グラフ・折れ線グラフは、高齢化の現状と将来像を表したものになります。棒グラフが年齢層別の人口数、折れ線グラフが65歳以上の人口の総人口に占める割合(%)を示したものになります。日本の総人口は2015年10月1日現在、1億2,711万人で、65歳以上の高齢者人口は3,392万人です。総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は26.7%です。
そして、将来の2060年には、総人口が減少し、高齢化率は上昇すると考えられています。なんと、65歳以上の方の総人口に占める割合が39.9%に達し、75歳以上人口が総人口の26.9%となり4人に1人が75歳以上となると推計されています。
(表② 高齢、単独世帯の増加)
(内閣府「高齢社会白書平成28年度版」を参照)
表②中の棒グラフが65歳以上がいる世帯数を示しています。棒グラフの一番下(赤色)が65歳以上の単独世帯の数となります。折れ線グラフは65歳以上いる世帯の中で単独世帯の占める割合です。2014年時点で25,3%となっています。65歳以上の方がいる世帯の4分の1は、単独世帯ということになります。
このグラフからは、65歳以上の方の単独世帯の割合が年々増加していることがみてとれます。
以上のグラフから読み取れること
「高齢化社会」は、よく社会福祉費用の増加や経済成長の鈍化の問題として語られていますが、高齢化社会に伴う孤独死の増加が家主の方にとってどのような問題を生じさせるでしょうか。
①部屋が片付かない⇒次の借り手が入れられない
相続人が分からないため、契約解除の手続きや残留している家財道具を処理できません(自力救済の禁止)。
②事故物件扱いになる可能性⇒財産的価値の低下
死亡したことがわからない場合があり、死後数か月後に発見されるなどの可能性もあります。
③借り手の減少
①②から、独居高齢者に貸さない方針をとったとしても、若者人口減少により、借り手の確保が難しくなります。特にワンルームマンションの家主の方は顧客の確保が困難です。
従来の解決方法
①相続人調査をして、交渉・裁判をする。
②相続財産管理人の選任申立をする。
新しい解決方法
①死後委任契約の活用
②任意後見契約(制度)の併用
③財産管理等契約の併用
イ 家主としてのメリットは?
①スムーズに次の借り手を探すことができる。
⇒本来、相続人しかできない賃貸借契約の解除、残留物の処理、敷金返還の手続き等を代理人が行えるようになります。
②顧客層が広がる。
⇒借り手に事前に死後の代理人を定めてもらっておけば、顧客にしづらかった独居高齢者も顧客にできます。
借主に手間と費用がかかるので、敬遠される可能性がある。
⇒契約書作成費用、手数料(公正証書を作成する場合には約15,000円)などが必要となります。
①家賃の支払いや契約の行く末について、代理人が適切な対応をしてくれる。
⇒借主が、将来認知症や事故で脳機能に障害を負った場合に、新たな契約を締結できなかったり、のちのち取り消されたりするおそれがありますが、代理人がいることで契約関係での法的な問題が解消されます。
②精神的な障害を抱えた後に手続きをするよりも、ずっと簡易で迅速な対応ができる。
⇒事後的な対応となると、家族を探して、連絡を取ったうえでその家族に裁判所での手続(法定後見人申立て)をしてもらわないといけなくなるため、手間と時間がかかります。事前に任意後見制度を利用しておけば、この手間と費用を省けます。
①借り手に手間と費用がかかる。
⇒任意後見契約は必ず公正証書にする必要があり、手数料がかかります。また、後見人には事前の報酬の支払いが必要となります。
②精神上の障害がないと制度の利用ができない。
⇒身体上の障害だけの方についてこの方法ではカバーできません。
入居時の契約において、借主に任意後見契約を締結することを条件とします。契約書に「任意後見契約を〇〇との間で締結すること」という文言を入れるましょう。さらに、いわゆる「見守り契約」の締結も条件とすることも考えられます。
※任意後見契約:将来の判断能力の低下に備えて、後見人となる者を任意に指定しておく契約です。本人の判断能力が低下した場合には、契約した後見人となるものが裁判所に後見開始を申し立てます。任意後見契約を締結しない場合には、後見開始には親族等の申し立てが必要となり、裁判所が後見人を選ぶこととなります(法定後見)。
※見守り契約:後見人となる人が、後見開始前の段階から定期的に本人の安否や心身の状態、生活状況を確認して、必要な時期に後見人選任の申立をするという契約です。相手方が弁護士などなら、必要に応じて法的助言をすることを内容に含めることができます。
①借り手に精神的障害がなくても、身体障害等で契約をすることに不安がある場合にも利用できる。
②契約の自由度が高い。
⇒後見委任契約と異なり、公正証書による必要はなく、内容を自由に取り決めることができます。
①任意後見契約(制度)などと比べて社会的信用は高くない。
⇒公正証書や登記がないため、公的な証明ができません。
②適切な管理人を選ぶ必要がある。
⇒管理人を公的に監督する人がいないため、管理人の能力・適性に依る部分が大きいといえます。管理人が適切な行為をせず、問題となる可能性はあります。
入居時の契約において、借主に財産管理等委任契約を締結することを条件の一つとします。契約書に「財産管理等委任契約を〇〇との間で締結すること」という文言を入れましょう。
不景気のため、生活が困窮し家賃を払えなくなる借り手が発生することがあります。このような借り手は破産を選択しないこともあり、対応が必要です。
破産の場合、滞納した家賃を払ってもらえるかはわからないですが、少なくとも本人又は代理人と連絡がつくため、今後の賃貸借契約をどうするかは協議できます。
行方不明や夜逃げの場合には、連絡がつかないため契約をどうするのかという問題が生じてしまいます。特に次のような問題が生じると考えられます。
①借主が長期間留守にして音沙汰がない。契約を解除できるか?
②借主が夜逃げしてどこにいるかわからない。契約関係をどう処理すべきか?
③部屋に残っている物を次の人に貸すために処分してよいか?
基本的には長期間留守にしているという理由では、契約解除は難しいです。
⇒解除をするには、長期間留守という事実に加えて、建物の性質上必要な協力を借主側が怠ったという事情等を総合考慮して、貸主と借主の間の「信頼関係が破壊された」と認められることが必要です。特約で「借主が〇ヶ月以上無断で不在の場合は貸主は契約を解除できる」と定めていれば、認められやすくなります。
※参考裁判例:東京地判平成6年3月16日
①3ケ月間の留守、という事実に加えて、②「借主が1か月以上無断で不在の場合は契約を解除できる」という特約があった。③留守が原因で建物のいたるところに痛みが生じており、④留守中にガス漏れ事故が起きた。⑤賃料増額請求を拒否されており、そのために他の所よりも低額の家賃となっている。⑥少しだが賃料の不払いがある。以上のような事実関係の下で、裁判所は貸主からの契約解除を認めました。特に②の特約の存在を重く評価し、③~⑥の事情も合わせて「信頼関係の破壊」を認めました。
※公示送達とは、所在不明の者を相手に訴訟や意思表示をする場合に、公的機関における一定期間の掲示をもって、その者に対する訴状送達や意思表示が行われたこととする手続きのことです。
借主の了承なく処分した場合には損害賠償請求される可能性があるので注意が必要です。手順を踏まなければ処分はできないと考えてください。
借主が勝手に出て行った、長期間不在である、契約は解除済みであるという事情があっても、部屋の中の物は依然として借主のものです。そのため、裁判(明渡し請求訴訟)を起こして、強制執行をする必要があります。
無断での撤去・処分は「残置動産の所有権放棄条項」のような特約がある場合でも適法に行うのは難しく、裁判例でも借主が任意に建物を明け渡した場合など限定的な場合にしか認めていません(東京高判平成3年1月29日)。
一般的な住居目的の賃貸借には「住居として使用すること」という条項が入っているのが一般的です。この場合に借主が住居以外の使い方をした場合(用法準義務違反)、貸主は解除等の対応ができるか問題となります?
例えば、住居として貸したのに、その建物で店の営業をしている場合に解除できるでしょうか。結論としては、ケースバイケースであり、用法遵守義務違反によって「信頼関係が破壊された」と認められるかがポイントとなります。
具体的には、①契約締結の経緯、②用法遵守義務に関する貸主と借主の交渉の経緯、③目的物(借家など)への影響、④近隣へ影響、⑤貸主と借主双方の事情などを考慮します。
契約解除が認められた例と認められなかった例を参考にしてください。
解除が認められた例
・「住居」利用のはずが、住居兼暴力団事務所
・「店舗兼事務所」のはずが、暴力団事務所
・「会社事務所」のはずが、テレホンクラブ
・「スポーツ用品店の店舗兼事務所」のはずが、キャバクラの店舗
解除が認められなかった例
・「住居」利用のはずが、学習塾。生徒6名程度で、短期間であった。
・「住居」利用のはずが、(住居兼)靴修理店
・「活版印刷の工場兼事務所」のはずが、写真印刷の製販のための作業所
集合住宅の賃貸では、騒音やゴミ、共用スペースの利用に関してご近似トラブルが発生するということがよく見られます。
このような近所迷惑なことをする借主に対して契約解除をして退去させることが可能か問題となります。
迷惑行為に対する解除ができるかもケースバイケースで、迷惑行為の程度によっては解除できる場合があります。
まず、貸主としては「近隣への迷惑行為をしてはならない」という条項(特約)があるかが重要です。この条項があれば、ご近所迷惑を理由としての解除が認められやすいです。
仮に、このような条項(特約)がなくてもご近所迷惑の程度があまりにもひどくて、「信頼関係を破壊している」と認められれば、解除が認められる場合があります。
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